よかった、私、助かったんだ……。 張り詰めていた気持ちが一気に緩み、 こわばっていた手足から力が抜ける。 脱力しながら壁にもたれかかっていると、 2人がこちらを振り返った。 そして――。 【黎明】 「初めまして、双葉。僕の名は、黎明。 あなたを迎えに来ました」 【司狼】 「俺は、司狼ってんだ。よろしくな。 花みたいに可愛いお嬢さん」 それぞれが、私に自己紹介する。 【双葉】 「えっ……? あなた達、どうして、私の名前を?」 だけど司狼と名乗った彼は、 私の質問には答えてくれず――。 【司狼】 「そんなに緊張するなって。 ……って、あんなことが起こった後じゃ リラックスしろって方が無理か」 【双葉】 「えっ? え、えっ?」 驚くくらい整った顔が、すぐ目の前にきた。 まだ戸惑ったままの手を握り締められ、 顎に添えられた指で顔を上向かされて――。 艶を多分に含んだ眼差しで、 真っ直ぐに見つめられる。 一体、どういうことなの? どうしてこの人、私の手を握ってるわけ? それどころか――。 戸惑う私をよそに、 その男の子は甘く囁きかけてくる。 【司狼】 「でも、もう安心してくれていいんだぜ。 俺が付いてるからには、さっきみてえな危険な目に 遭うことはねえ」 【司狼】 「どんな時でも、身を挺して守ってやる。 ……これから先も、ずっとな」 まるで、愛しい恋人に話す時のような 口調だった。 この人と私は、初対面のはずなのに―― 場慣れした所作と艶めいた声に、 そのことを忘れさせられてしまう。 【司狼】 「……!?」 彼の目が、訝しげに細められた。 【司狼】 「どういうことだ? 虹彩の形が、半綺と違う……?」 私の手をつかむ左手に、力が込められた。 【双葉】 「ちょ、ちょっと……! 何するの!? 離してってば……!」 【司狼】 「何だよ、恥ずかしがってんのか?」 【司狼】 「遠慮するなって。 さっき、怖い思いをさせたお詫びだ。 ……ほら、目を閉じて」 穏やかな声で優しく促した後、 ゆっくりと顔を近づけてくる。 どう考えても、これは――。 【双葉】 「離してって言ってんでしょ!! この変態!」 私は渾身の力を込めて、 彼の胸を押しのけた。 |