【???】
「別に、それでもいいよ。
 もうすぐね、お祭りがあるんだ」

【???】
「お祭りに必要なものって、何だか知ってる?
 それはね――生贄だよ。
 おめでたい日に、自らの命を捧げる生贄」

【???】
「生贄は、多い方がいいからね。
 死ぬのが怖くないんなら、来ればいいよ。
 ……歓迎してあげるからさ」

背筋が寒くなるような、
温かみというものがまるでない冷酷な瞳を
こちらに向けた後――。

彼は、
積み上げてある車の屋根へと飛び乗った。

そして車の上を飛び移って、
この場から姿を消してしまう。

彼は、一体何者なの?
どうしてこんな……!

と、その時――
ぽつぽつという音と共に、
雨粒が降り注ぎ始める。

にわか雨だろうか。
空から降り落ちる雫が、次第にその勢いを
増していく。

【双葉】
「先生っ……!」

私は必死に、先生へと取りすがった。

【双葉】
「先生っ――!
 しっかりしてください、先生!」

先生にしがみつきながら、絶叫するけど――。

彼は、答えてくれない。
閉じた目を、開けてもくれない。

苦しげに唇をうごめかせるけど、
激痛で、声を出すことすらできない
みたいだった。

その間にも、傷口からは血が流れ続け――
地面にできた水溜まりへと流れ込んでいく。

どうしよう……どうすればいいの?

私の双眸から溢れ出した涙が
雨の粒と混ざり合って、
私の顔を濡らしていく。

先生を助けなきゃいけないのに……
病院に連れて行かなくちゃいけないのに、
私1人じゃ、どうやっても――!