私は、もどかしい気持ちで
人影がこちらへ近付いて来るのを待った。
その時……。

【司狼】
「……お嬢ちゃんか?」

聞き慣れた、耳に心地良い声が響き渡る。

その瞬間、私は何も考えられなくなって
全速力で、門から出て来た人物――
司狼へと駆け寄った。

恥ずかしさも、ためらいもなかった。

私と司狼は、ボスと部下っていう
ただそれだけの関係で……。

こんなことが許される立場じゃ
ないってことは、よく分かってたけど。

それでも、ただそうしたい一心で
私は司狼の胸にすがりついていた。

【司狼】
「おぉっ――と!」

突然抱きつかれ、
司狼はバランスを崩して倒れそうになる。

【司狼】
「な、何だよ双葉ちゃん。
 意外と大胆なんだな? 前は俺のこと、
 バイキンみてえに扱ってたくせに……」

司狼はおどけながらそう言ったけど、
私はもう、言葉を紡ぐことができなくなって
しまっていた。

ただ、司狼が元気な姿で
戻って来てくれたことが嬉しくて――。

【双葉】
「良かった……!
 司狼、無事だったんだ……!」

それだけを口にするのが、やっとだった。

司狼はそんな私の頭に手を置いて、
軽く撫でてくれながら……。

【司狼】
「……女との約束は、守るって言ったろ?
 お嬢ちゃんに本当の恋愛を教えてやるまでは、
 死なねえって」

【双葉】
「本当の恋愛って……」

冗談なのか本気なのか分からない
司狼のいつもの物言いに、
私は心から安堵してしまう。

そして、ゆっくりと身体を離し……
改めて司狼の顔を見上げる。