【渉】
「わ……悪いな。
 オレのせいで、迷惑……かけちまって」

渉くんは力のこもらない笑みを浮かべながら
詫びてくる。

【渉】
「オレが……短気起こしてあいつに
 殴りかかって行ったりしなきゃ……
 こんなことにならなかったんだよな……」

怪我の痛みの為か、渉くんの言葉は
彼の口から発せられたものとは思えないほど
弱気だった。

【双葉】
「……その話は、後にしよう。
 ここから逃げ出してからでも――」

だけど、渉くんの顔に宿った自嘲めいた笑みは
消えてくれない。

【渉】
「……オレ、いつもこうなんだ。
 やる気ばっか空回りして、
 周りに迷惑かけてばっかで……」

【渉】
「兄貴にも、言われたのにな。
 お前を守ってやれって。
 それなのに、オレ……」

【双葉】
「だから、今は
 そんな話をしてる場合じゃ……!」

私がそう言って、
渉くんの言葉を遮ろうとした時だった。

【渉】
「……オレを置いて先に逃げてくれ。
 お前1人だったら、あいつらに気付かれずに
 逃げられるだろ……?」

【双葉】
「だ、駄目だよそんなの!
 私1人で逃げるなんて――」

と、その時だった。